実行予算とは 工事原価管理における役割と作成の考え方
実行予算は、工事を受注した後に現場ごとに作成する内部の管理用予算であり、見積金額や契約金額とは別の性格を持つ。原価管理の中核として、利益目標への到達手段と現場責任者の意思表示という二つの役割を担う。
実行予算とは何か
実行予算とは、工事を受注した後に、その現場を実際にいくらで仕上げるのかを社内で管理するために作成する予算のことを指す。発注者との間で取り決める見積金額や契約金額とは別の性格を持ち、原価管理という管理会計の一部として位置づけられる。原価管理は税務会計や財務会計のように書式やルールが厳格に定められているものではなく、自社で決めた形式や運用ルールに沿って行ってよいものである。したがって実行予算書も、決まった雛形に従う必要はなく、自社の業態に合った使いやすいスタイルを独自に定めればよい。
工事を受注した際に実行予算をきちんと作成しないまま現場を進めてしまうと、現場が終わるまで収支がわからず、下請や資材の発注価格をいくらに設定すればよいか、その作業に何人の人員と何日を充てればよいかといった判断の拠り所を欠いたまま工事を進めることになりかねない。実行予算は、こうした判断のための地図の役割を果たすものである。
実行予算が果たす二つの役割
実行予算書には大きく二つの役割がある。
一つ目は、現場の利益目標にたどり着くための道標としての役割である。実行予算があることで、下請工事や材料の発注価格、必要な作業員数や作業日数についての判断基準が得られる。さらに、予算と実績を随時比べることで、工事の途中であっても最終的な利益の見通しを把握できるようになる。利益の見通しが目標を下回っていることがわかれば、残りの工程でどのように挽回するかを検討し、対応することが可能になる。行き当たりばったりではなく、明確な意思を持った現場運営と原価管理が実行予算によって初めて成り立つ。
二つ目は、現場責任者による目標達成の意思表示としての役割である。実行予算書は、自分が担当する現場でどのようにしてどれだけの利益を確保するのかという、現場責任者自身の意思表示であり、いわば決意表明の性格を持つ。そのため、実行予算書は現場責任者自らが作成することが基本とされる。作成された予算は最終的に経営者が内容を確認し、必要であればさらなる努力目標を加味したうえで、現場責任者に運用を託す形が望ましいとされている。
本部側であらかじめ予算を組んで現場に指示する進め方をとる会社もあるが、現場責任者がその内容を十分に理解しないまま「難しいがやってみる」という受け止め方にとどまってしまうと、目標達成への当事者意識が育ちにくい。実現できる予算なのか、実現するためにはどうすればよいのかを、現場責任者を中心に経営者や社内の関係者が十分に議論し検討を尽くすことで、初めて現実味のある実行予算が仕上がる。
現場で使える実行予算書の条件
実行予算書を作成しても、現場責任者の手元に留め置かれたまま活用されず、工事が終わってから結果だけを記入する形だけのものになっているケースも見られる。実行予算書は、現場運営の道標として、また最終的な利益を見通すための情報源として、工事の進行中に実際に使われることで初めて意味を持つ。
現場で使える実行予算書にするためには、見積書や見積原価の金額をそのまま転記しただけでは不十分である。自社が発注する形態や作業の進め方に合わせて、項目の括り方や単位を管理しやすい形に組み直す必要がある。例えばコンクリートなどの材料費は、進捗や出来高の管理は工種ごとに分けた数量で行う一方、価格の取り決めはまとめた数量で行う方が合理的な場合がある。また掘削工事であれば、重機を何台使い、補助作業員を何人配置して何日で終わらせるのかといった、現場で実際に手配し支出を把握できる水準まで内訳を分解しておく必要がある。
見積書と同様に工種単位の単価だけで管理できるのは、大型工事を受注した元請が、外注業者とあらかじめ下請契約を結ぶような限られた場合であり、その場合でも内訳を把握したうえで価格の妥当性や歩掛の実績を確認することが欠かせない。
施工計画・歩掛との関係
実行予算の数字に求められるのは、実際にその金額で仕事ができ、かつ確保すべき利益を実現できる現実性である。そのためには自社の標準的な歩掛を採用することが基本になる。自社の歩掛や実績データは会社の財産であり、競争力の源泉でもあるため、部門ごとにばらばらに管理するのではなく会社として一元的に蓄積し、常に最新の状態に更新していくことが望ましい。自社に実績データのない外注工事については、複数社から見積を取ったり、作業内容を詳しく確認したりするなど、価格の妥当性を検証する作業が欠かせない。
また、実行予算は施工計画とセットで考える必要がある。同じ内容の工事であっても、重機一台で日数をかけて行うのか、毎日残業して短縮するのか、重機を複数台配置して同時に作業を進めるのかによって、必要な予算の金額は変わってくる。与えられた施工条件のなかで最も費用対効果の高いやり方を見つけ出し、それを実行予算に反映させることが重要になる。
日々の実績と連動させた管理
短期間の工事を数多くこなす業態では、一日一日の進捗がそのまま収支に直結する。こうした現場では、実行予算を日々の作業日報と照合できる形にしておき、毎日の重機の台数や作業員の人数、予定出来高をあらかじめ計画しておくことがポイントになる。日報と突き合わせることで、計画どおりに進んでいない場合にはどれだけ取り戻す必要があるかをすぐに把握でき、必要な対策を早期に講じることができる。
何人でどれだけの作業量を進めれば採算が合うのかをあらかじめ把握しておくことも実務上重要である。想定していない人員配置になった場合でも、通常の採算ラインと比較することで、その日の作業量が採算に見合っているかどうかをすぐに判断できるようになる。
予算実績管理と最終利益予測
工事の途中では、予算と実績を突き合わせて計画どおりに進捗しているかを常に確認し、必要に応じた対策を講じ続けることが求められる。ここで留意すべきは、現時点までの累積の超過額だけを見て挽回額を判断してはならないという点である。それまでの傾向が変わらないまま工事を続けた場合に、完了時点でどれだけの超過になるかという最終的な利益予測に基づいて評価する必要がある。仮に工事の中間時点で一定額の予算超過が生じていたとしても、そのままの進め方を続ければ完了時にはその倍近い超過になる可能性がある。その場合、残りの工期でどれだけ支出のやり方を見直す必要があるかは、中間時点の超過額ではなく、完了時点の予測超過額を基準に判断しなければならない。
会社全体の利益に責任を持つ経営者にとっては、各現場の状況をリアルタイムに近い形で把握することが欠かせない。資金繰りなどの経営判断が後手に回らないよう、現場ごとの最終利益予測を定期的に本部へ報告する仕組みを整え、それに基づいて必要な指示を各部署に発信することが望ましい。月次の会計処理の結果を待つと状況の把握が遅れがちになるため、実行予算に基づく予算実績管理をもとにした月次の収支試算表など、締日から短期間で作成できる管理資料を活用することが有効とされる。
原価管理に決まった書式や型があるわけではなく、会社や工事の規模、業態に合った管理しやすい方法を採用すればよい。重要なのは、利益目標を明確にし、その達成に向けた具体的な計画を持って現場を運営することである。
FAQ
実行予算と見積金額・契約金額はどう違いますか
見積金額や契約金額は発注者との間で取り決める請負の対価であるのに対し、実行予算は受注後に工事を実際にいくらで仕上げるかを社内で管理するために作成する内部資料である。見積書の金額をそのまま転記しただけのものでは、原価を管理する道具として機能しない。
実行予算書にはどのような役割がありますか
大きく二つの役割がある。一つは現場の利益目標に到達するための道筋を示す役割で、下請や資材の発注価格、必要な人員や日数の判断基準になる。もう一つは現場責任者による目標達成の意思表示としての役割で、自分の現場でどれだけの利益を確保するかを宣言する性格を持つ。
実行予算書は誰が作成するべきですか
現場責任者が自ら作成することが基本とされる。本部側で作成して現場に指示するやり方もあるが、現場責任者が内容を十分に理解しないまま予算を渡されると、目標達成への当事者意識が薄れやすい。最終的には経営者が内容を確認し、必要な上乗せの目標を加えたうえで現場に託す形が望ましいとされる。
実行予算書はどの程度細かく作成する必要がありますか
見積書の科目をそのまま並べ替えただけでは、現場で使える管理資料にはならない。機械の台数や作業員の人数、作業日数といった、現場で実際に手配し支出を把握できる単位まで内訳を分解しておく必要がある。分解の粒度や項目の括り方は、外注中心の会社か直用作業員を抱える会社かなど、自社の業態に合わせて決めるものとされる。
歩掛はどのように設定すればよいですか
自社の標準的な歩掛を採用することが基本である。自社の実績データは会社の財産であり競争力の源泉でもあるため、一元的に蓄積し常に最新の状態に更新していくことが望ましい。自社に実績のない外注工事については、複数社から見積を取ったり作業内容を詳しく確認したりして、価格の妥当性を検証する必要がある。
予算より支出が超過している場合、どう判断すればよいですか
現時点までの超過額だけを見て挽回額を判断するのは早計とされる。その時点までの傾向がこのまま続いた場合に工事完了時点でいくら超過するかという最終的な損益の予測に基づいて、残りの工程でどれだけ支出のやり方を見直す必要があるかを判断することが重要である。
経営者は実行予算にどう関わるべきですか
各現場の最終的な利益予測をタイムリーに把握し、資金繰りなどの経営判断に反映させる立場にある。月次の会計処理の結果を待つと状況把握が遅れがちになるため、実行予算に基づく予算実績管理から、締日から数日で作成できる月次の収支試算表のような形で、現場の状況を早期に吸い上げるしくみを持つことが勧められる。