一人親方の保険制度ガイド|労災保険特別加入から退職金共済まで
建設現場で個人請負として働く一人親方は雇用者ではなくなるため、労災保険や退職金、医療・年金といった保障を自ら選んで加入する必要がある。ここでは代表的な公的制度の枠組みと考え方を整理する。
一人親方とは何か
建設現場では、個人で工事の一部を請け負う、いわゆる「一人親方」が数多く活躍している。特定の会社に所属している場合であっても、その会社との関係が雇用ではなく個人請負であり、個人事業主のような立場にあれば一人親方に該当する。
雇用者ではなく一人親方となるかどうかは制度ごとに個別の確認が必要になるが、一般的には次のようなケースが該当しうる。雇用者としてではなく個人で仕事を請け負っている場合、特定の会社に所属していてもその会社と個人請負の関係で仕事をしている場合、複数人のグループで仕事をしていても互いに雇用関係がない場合、そして親方の下で技能を修得している最中であっても、その親方と雇用関係がない場合である。
一人親方になることで生じる変化
一人親方になると雇用者ではなくなるため、雇用者を対象とした諸制度の枠外に置かれる。代表的なものが雇用保険で、一人親方は原則としてこれに加入できない。また、元請の会社が倒産した場合、その影響を個人事業主として直接受ける立場にもなる。
こうした懸念が生じる一方で、一人親方(個人事業主)が自ら加入できる社会保障制度も数多く用意されている。労災保険の特別加入をはじめ、退職金の積み立て、医療保険、年金、取引先の倒産に備える共済制度など、雇用者向けの保障を代替・補完する仕組みが複数存在しており、これらをどう組み合わせて活用するかが一人親方にとっての実務的な課題となる。
労災保険への特別加入
建設現場では、元請業者が一括して下請業者の雇用者を労災保険に加入させるのが原則である。しかし雇用者ではない一人親方は、この労災保険の適用を通常は受けられない。そこで用意されているのが、一人親方が自ら労災保険に加入できる特別加入という仕組みである。
特別加入をすれば、業務中や通勤途中の災害によるケガや病気の治療費、休業や障害に対する補償、万一の際の遺族補償などの給付を受けられる。加入するためには、都道府県労働局長が認可した労働保険事務を代行する団体に入会するか、あるいは自ら団体をつくることが必要になる。手続きの詳細は最寄りの労働基準監督署で確認できる。
退職金を準備する仕組み
雇用者であれば勤務先を通じて積み立てられる退職金も、一人親方の場合は自ら制度を選んで加入する必要がある。代表的なものが、建設業退職金共済制度(建退共)である。これは国の共済制度で、現場で働いた日数に応じて掛金を積み立て、建設業から引退する際に退職金として受け取る仕組みになっている。掛金は日額ベースで定められており、就労日数分を積み立てていく形をとる。一人親方であっても、建退共が認定した任意組合に入会するか、複数の一人親方が集まって任意組合をつくることで、この制度に加入できる。
もう一つの選択肢が、中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業共済制度である。個人事業主向けに国がつくった退職金制度ともいえるもので、毎月一定額を積み立て、事業をやめた際に共済金を受け取る。積立額は加入者自身が一定の範囲内で選択でき、一人親方も個人事業主として加入することが可能である。
医療保障をどう確保するか
一人親方になると、国民健康保険への加入手続きを自ら行わなければならない。国民健康保険には二つの経路がある。一つは、建設業など業種別の団体が組織する国保組合が運営するもので、ケガや病気で休業中の手当金給付といった独自の福利厚生サービスを行っている組合もある。この場合、加入には母体となる業種団体の会員になることが必要になる。
もう一つは、市区町村が運営する国民健康保険である。業種団体の国保組合に加入できない場合は、こちらに加入することになり、手続きは居住地の市区町村の窓口で行う。どちらの経路をとるかによって給付内容や保険料の考え方が異なるため、建設業に関わる国保組合の有無を確認したうえで選択することが実務上のポイントになる。
老後に向けた年金の備え
厚生年金の被保険者だった人が一人親方になり脱退した場合、国民年金への加入手続きが必要になる。手続きは市区町村の国民年金担当窓口で行う。
国民年金だけでは老後の給付水準に限りがあるとされることから、国民年金に上乗せする任意の制度として国民年金基金が用意されている。地域単位で加入できるものと業種単位で加入できるものがあり、建設業に関連する基金も設けられてきた。給付の型には終身にわたって受け取れるものと、期間を定めて受け取れるものがあり、加入者はこれらを組み合わせて自分に合った年金プランを設計できる仕組みになっている。制度の枠組みは見直しが行われることがあるため、加入を検討する際は最新の窓口情報を確認するのが望ましい。
取引先の倒産に備える制度
一人親方として個人請負で仕事をする場合、発注元の会社が倒産すると、雇用者に対する賃金支払いの確保のような保護が及ばず、代金を回収できなくなるおそれがある。こうした事態に備える制度が、中小企業基盤整備機構が運営する中小企業倒産防止共済制度である。
取引先事業者が倒産し、代金の回収が困難になった場合、共済金の貸付を無担保・無保証人・無利子で受けることができる。継続して一定期間事業を行っている一人親方であれば、個人事業主としてこの制度に加入することが可能である。
技能を磨くための教育訓練
雇用者であれば雇用保険の適用によって教育訓練に対する各種の助成を受けられるが、一人親方になるとこの助成の対象外になる。しかし、一人親方であっても受講できる教育訓練は全国各地に用意されている。
正しい技能を基礎から身につけるうえでは、専門的な教育訓練を受けることが効果的とされる。建設技能の教育訓練を行う施設や専門学校の情報はインターネット上でも公開されており、対象となる業種や取得可能な資格、施設ごとの特長や科目などを調べたうえで、自分に必要な訓練を選んで受講することができる。
制度を組み合わせて考える
ここまで見てきたように、一人親方が自ら備えるべき保障は、労災・退職金・医療・年金・取引リスク・教育訓練と多岐にわたる。それぞれの制度は運営主体や加入窓口が異なり、要件も個別に定められているため、自分の働き方や事業の状況に照らして、どの制度にどのタイミングで加入するかを一つずつ確認していく作業が欠かせない。制度の内容や掛金は見直しが行われることもあるため、加入前には各制度の窓口で最新の情報を確認したうえで判断することが実務上重要になる。
FAQ
一人親方に該当するのはどのような場合ですか
雇用者としてではなく個人で仕事を請け負っている場合や、特定の会社に所属していても個人請負の関係で仕事をしている場合などが該当しうる。何人かのグループで仕事をしていても互いに雇用関係がなければ一人親方にあたる可能性があり、該当するかどうかは制度ごとに個別の確認が必要になる。
一人親方になると何が変わりますか
雇用者ではなくなるため、雇用保険をはじめとする雇用者向けの諸制度の対象外となる。また元請の会社が倒産した場合の代金回収リスクを自ら負う立場にもなる。その一方で、一人親方が自ら加入できる社会保障制度も数多く用意されている。
労災保険特別加入とはどのような制度ですか
本来は雇用者が対象となる労災保険に、雇用者ではない一人親方が任意で加入できる仕組みである。加入すれば業務中や通勤途中の災害によるケガや病気の治療費、休業や障害への補償、死亡時の遺族補償などの給付を受けられる。加入には都道府県労働局長の認可を受けた団体への入会が必要になる。
建設業退職金共済制度にはどうすれば加入できますか
一人親方であっても任意組合の会員になることで建設業退職金共済制度(建退共)に加入できる。現場で働いた日数に応じて掛金を積み立て、建設業から引退する際に退職金として受け取る仕組みで、建退共が認定した一人親方の任意組合に入会するか、複数の一人親方で任意組合をつくることで加入できる。
国民健康保険への切り替えはどう進めますか
一人親方になると国民健康保険への加入手続きを自ら行う必要がある。建設業などの業種別団体が運営する国保組合に加入する方法と、市区町村が運営する国民健康保険に加入する方法があり、業種団体の会員になれない場合は市区町村の窓口で手続きを行う。
老後の備えとして年金はどう考えればよいですか
厚生年金から脱退した一人親方は国民年金への加入手続きが必要になる。さらに国民年金に上乗せする任意の制度として国民年金基金があり、給付の型を組み合わせて加入者自身が年金プランを設計できる仕組みになっている。
取引先が倒産した場合に備える制度はありますか
取引先事業者の倒産によって代金回収が困難になった場合に備え、共済金の貸付を無担保・無保証人・無利子で受けられる中小企業倒産防止共済制度がある。継続して一定期間事業を行っている一人親方は個人事業主として加入できる。
一人親方でも受けられる教育訓練はありますか
雇用者向けの雇用保険適用による助成は受けられなくなるが、一人親方でも受講できる教育訓練施設や専門学校は全国各地にある。対象業種や取得可能な資格、施設の特長などを調べたうえで、必要な訓練を選んで受講することができる。