• 辻 乃々子
      私の祖父と父は彫刻家だ。幼い頃から二人の仕事をする姿をみてきた。二人は木材を鑿と玄翁と自分の腕で様々なものに変化させていた。その姿に純粋に憧れを抱き、祖父や父の様になりたいと思った。しかし、彫刻というものは、生活必需品とは違い、いつも売れるというものではなく、どんなに素晴らしい作品であっても注文がくるとは限らない不安定な面がある。私の憧れを夢にするには、その部分に少し引っかかりがあった。そのようなもやもやとした気持ちを抱いていた私に転機が訪れた。
     私は以前から建築物、特に寺社仏閣など歴史的建築物を見てまわるのが好きだった。中でも様々な部分に施してある細かな装飾に自然と目が行き、見入ってしまう。何十年、あるいは何百年とその繊細さを保ち続けるためにはどのような仕掛けがあるのかを調べていくうちに、宮大工という仕事や建築物の修繕・修復の仕事にたどり着いた。これらの仕事は、建築物の修理や保存だけにとどまらず、建立当時の背景やその建築物が歩んできた歴史、あるいは当時の生活や建立に関わった職人の思いまでもを伝える仕事であることを知り、私の夢は固まった。「歴史的建築物の修繕・修復に関わる仕事に就きたい。」
     その思いを胸に私は高岡工芸高校建築科への進学を決めた。高校では建築に関する専門的な学習だけでなく、コンペ製作やCAD など実践的なことも学んでいる。そして、何より印象的だったのが、インターンシップである。
     私はこの夏、文化財保護の仕事をしている宮大工の棟梁のもとでインターンシップを体験した。その棟梁から「文化財保護という仕事はただ昔のものを新しいものに取り替えるのではない。例えば江戸時代につくられたものを修復するなら、自分も江戸時代の大工の気持ちになることが大切である。当時の技術を知るだけでなく、何を考え、何を思いながらその仕事をしたのか、そういったことを、五感を使って感じることで、自分自身が江戸時代に戻って当時の大工と会話することだ。」と聞き、私の夢の実現に向けての歩みはより力強いものとなった。
     当時の大工の精神を受け継ぎ、次の世代へとその歴史や技術や思いを繋げていくこの仕事は、毎日汗だくになりながらも作品をよりよいものにするために魂を込めて全力で仕事に打ち込む祖父や父の仕事ともどこか重なるものがある。祖父や父の仕事への憧れと引っかかりが契機となり、別の形で私の夢が生まれた。今はこの素晴らしい夢に出会うことができた恵まれた環境に感謝しつつ、先人たちのものづくりに対する「魂」を受け継ぎながら、まずは二人を超える職人になれるよう、精一杯頑張っていきたいと思う。